心に残った歌

今までに心に残った歌(1970年代~)

サルビアの花

もとまろ
作詞:相沢靖子、作曲:早川よしお

以前水越恵子さんの「too far away」という歌を紹介したことがありますが、この「サルビアの花」も同じ系統の歌と思っています。「同じ系統」とは「素敵なメロディー」を作るけど、歌うのはほかの人のほうがよい」という系統です。

この歌を僕に教えてくれたのは高校生時代のE君という友だちです。E君は高校生になって初めて仲良くなった友だちです。誰でも経験していると思いますが、高校という新しい環境ではに不安になるのが当然です。そうしたときに親しくなるのは「席が近い人」というのが定番です。E君は僕の前の席に座っていました。

身長は僕とほぼ同じくらいですが、少し痩せぎすで高校生にしては長髪でちょっとおしゃれな感じの人でした。当時はほとんど意識していなかったというか、わかっていませんでしたが、僕よりもかなりお金持ちの家の高校生だったように思います。

E君は関西弁のちょっと早口で豪快に笑う人で、当時関西で若手落語家として人気があった「桂きん枝さん」に似ていました。仲良くなりましたので自然と一緒に帰るようになり、細かいことまでは憶えていませんが、とにかく二人でよく笑いながら歩いていた思い出があります。なにが楽しかったのかわかりませんが、とにかくいつも二人して笑っていました。

ある日、クラスのO君というクラスメートが突然授業中に教室を飛び出し、どこかに行ってしまったことがあります。今でいう発達障害だったように思いますが、突然大声を出したりなど普段から突飛な行動をする人でした。そのO君が突然教室を飛び出しました。先生もとても驚いてしまい、僕とE君に向かって「ふたりで追いかけて」と要請してきました。僕たち二人を指名したのは、普段から仲良くしているのを見ていたからだと思います。それくらい僕とE君はいつも一緒にいました。

そんなときにE君が僕に教えてくれたのが「サルビアの花」という歌でした。「とってもいい歌だから聞いてよ」と感動した声で勧めてきました。当時はラジオで歌情報を知るのが一般的だったように思いますが、E君に教えてもらって聞いた僕もとても感動した記憶があります。なにが感動したって、それは

♪とびらを開けて 出てきた君は
♪偽りの花嫁
♪ほほをこわばらせ 僕をチラッと見た

この歌詞ですよ。こんな感動する歌詞があるでしょうか。彼氏を捨ててお金持ちと結婚した女なんてひどい女に決まっているじゃぁ、あ~りませんか!以前紹介したハマショーさんの「丘の上の愛」の女性のパターンです。

しかし、今になって思いますと、高校生という純朴な時期にこの歌詞が心に刺さったのもなんかすごいなぁ、と思う次第でございます。まだ恋愛経験もない無垢な少年、いえ青年、いえいえその中間に位置していた時期に、このような歌詞に反応していた自分が恥ずかしい…。

それはともかく、恋を知らない当時から僕は女性に純粋性を求めていたことがわかります。問題は、僕が理想としていた純粋な女性と結婚できたか、否か、ですが、それは秘密ということで何卒よろしくお願い申し上げます。

それほど仲がよかった僕たち二人ですが、僕は次第に身体がなまってきたことを感じるようになっていました。元々運動好きな肉体ですので、ただE君と一緒に帰るだけの生活に物足りなさを感じるようになってきました。身体が運動をしたくてしたくてウズウズしてきていたのです。

細かいことは大分前ですが、コラムで書いていますのでそちらを読んでいただくとして、結局、僕は学校一練習が厳しい運動部に入り、練習に明け暮れることになります。そうして次第に、E君との親友関係も薄くなっていきました。僕はどっぷりと練習に浸かる高校生活を送ったのですが、この「サルビアの花」を聴くたびにE君を思い出しています。

また、次回。

「とらわれの貧しい心で」

浜田省吾
1st ALBUM 1976/04/21発売

これまで書いていますように、浜田さんの歌には「社会的メッセージ」「純愛」「不倫の愛」と3つのテーマがあるのですが、この歌は「社会的メッセージ」に分類される歌です。この歌の歌詞を聴いて、僕は浜田さんの歌詞の凄さを感じたのでした。

 

「ああ、歌詞ってこうやって書くんだな」と思わせる感動する内容なのです。

♪脅えながら生活する都会では
♪怪しげな顔した イカサマ師達も
♪同じような悲しみに憑かれ生きているよ

 

単に悪い奴を非難するだけではなく、その背景にあるものにも思いを馳せているところが浜田さんの奥深さを表しています。また、たったこれだけのフレーズで「悪い奴に騙される善人」と「その悪い奴にもそれなりの理由があること」といった社会の不条理性を表現しています。これを天才と言わずなんと言いましょう!

 

かれこれもう6年も経ってしまいましたが、2015年に浜田さんは『アゲイン 28年目の甲子園』という映画の主題歌を作りました。デビューして30年以上経つそうですが、それほどのベテランでありながら、その歌を含んだアルバムがオリコンで1位を獲得しました。

 

こんな快挙を実行できたのは、なんと言っても昔から浜田さんを愛してやまない根強いファンがいるからです。僕はその報を聞いてそうしたファンの方々の愛情の深さに心打たれました。僕のような片手間ファンではなく、身体の神髄から浜田さんに心酔しているファンがたくさんいることの証以外のなにものでもありません。

 

もしかしたなら今の若い人には、今一つ心に響かないかもしれませんが、中高年以上の方々には心の琴線に響いているのではないでしょうか。ここまで行ってしまいますと、、「歌が」とか「メロディーが」とか「歌詞が」などという枝葉末節なことはどうでもよく、ハマショーさんの存在そのものを崇めていると思います。ある意味宗教に似ているとも言えそうですが、そうしたファン心理をたぶらかそう、操ろうとする素振りが全くないこともハマショーさんの魅力の一つです。

 

以前、ハマショーさんのインタビュー記事をなにかで読んだ際に、デビュー曲の「生まれたところを遠く離れて」の感想を師匠である吉田拓郎さんに求めたところ、「内容的に売れそうもないなぁ」と言われたと話していました。この歌もデビュー曲と同じ流れにあると思いますが、僕は嫌いではありません。どちらもメッセージ性が高い歌詞ですが、だからこそ素敵と思うのは僕だけではないはずです。

 

実は、この歌の歌詞はとても短く、演奏のやりようによっては4分ほどで終わってもおかしくないのですが、以前僕がYoutubeで見た映像はなんと8分ほどの大作に仕上がっていました。もちろんだからと言って内容が薄くなっているわけではありません。ハマショーさんの訴えたいことが心の中にしみこんでくる映像になっていました。

 

ハマショーさんを見ていますと、アーティストとファンの理想的な関係を示しているように思えてなりません。そうした関係が築けているのも、偏に(ひとえに)ハマショーさんの人間性が素晴らしいからに違いありません。

 

また、次回。

卒業写真

作詞作曲 荒井由実
ハイ・ファイ・セット(デビュー・シングルとして1975年発売)
*フォークグループ「赤い鳥」が路線上の違いから1974年9月に解散。「赤い鳥」のメンバーだった山本潤子(旧姓、新居潤子。1973年4月メンバーの山本俊彦と結婚)、山本俊彦(1947年2月23日 - 2014年3月27日、大阪市出身)、大川茂(1945年9月6日 - 、三重県出身)の3人が同年10月に結成した。グループ名は細野晴臣の案

 

今回調べるまでこの歌がハイ・ファイ・セットのデビュー曲とは知りませんでした。僕がハイ・ファイ・セットを知ったのは学生時代に「HI-FI BLEND」というベストアルバムを聴いてからです。このアルバムは「大学生のための歌」といった感じで作られているのですが、その中の最後に収められているのが「卒業写真」です。

 

作詞作曲が荒井さんですので、荒井さんも歌っているのですが、“断然”と言っては荒井さんに失礼ですが、“断然”山本さんの歌声のほうが素敵です。この歌のほかにも幾つかハイ・ファイ・セットが歌っている歌がありますが、誠に申し訳ありませんが、山本さんが完勝です。

 

そうは言いましても、作った人の才能が減じられることは全くありません。それどころか創作力の凄さを浮かび上がらせています。確かに山本さんは素晴らしい歌声の持ち主ですが、その声も素晴らしい歌に出会ってこそ開花するものです。その意味で言いますと、「卒業写真」という歌は荒井さんと山本さんの二人が出会ってこその名曲と言えます。

 

歌詞の量はあまり多くはないのですが、心に染み入る珠玉の言葉が並んでいます。

 

♪人ごみに流されて 変わってゆく私を

♪あの頃の生き方を あなたは忘れないで
♪あなたは私の 青春そのもの

 

これを名曲と言わずなんと言いましょう。

 

今回調べて驚いたのですが、この歌をカバーしている人のなんと多いことよ。それだけ名曲であることの証ですが、僕のような中高年だけではなく若い人たちにも受け入れられていることがなによりうれしい限りです。

 

年代は変わろうとも、「みんなの心に染み入る光景は同じ」ということを知りました。おそらくこの歌の言いたいことは「どんなに年月を重ねようとも、純粋であれ!」ではないでしょうか。

 

また、次回。

 

MONEY

歌:浜田省吾
1984年10月21日に発表
オリジナル・バージョンはアルバム『DOWN BY THE MAINSTREET』に収録
シングルとして発売されていない

 

今回は先々週の予告通り浜田省吾さんの楽曲を取り上げます。いつも書いていますように、僕が好きになる歌に出会うのは、その歌がヒットしたり注目されたりした時期とはかなりずれているのですが、この歌もまさにかなりあとになってから知った歌です。

初めてこの歌に出会ったのはコロッケ店を営んでいたときです。毎日お昼休みは午後の1時~2時にとっていたのですが、お店の裏の部屋でお昼ごはんを食べながらラジオを聴くのが日課になっていました。僕は本当に子供の頃からラジオは「TBS」と決まっているのですが、どうしてそのようになってしまったのかは全く記憶にございません。

気がついたら「TBSしか聴かない体質」になっていました。僕をそのような体質に導いた一番の要因はTBSアナウンサーの大沢悠里さんの存在です。実際はあまり聴いたことはないのですが、夕方に放送されていたラジオ番組で大沢さんの存在を知り、それから午前の次回帯に移ってからの「大沢悠里のゆうゆうワイド」という番組で完璧にはまりました。特に、金曜日に放送されていた「お色気大賞」はとても好きなコーナーでした。

お色気大賞」という名前から想像できると思いますが、一般の人の体験談を募集しそれを紹介するコーナーです。「色気」とつくだけに内容がエロいのでやり方をひとつ間違えますとかなりドギツイ内容になるのですが、大沢さんの絶妙な語り口で卑猥になり過ぎることがなく、見事に楽しいエッチ話に落とし込んでいます。相手を務めます「さこみちよ」さんの存在も大きいのですが、ふたりでかなりスケベな話を楽しい思い出話に昇華させています。

大沢さんは持って生まれた素敵な声の持ち主で、一時期テレビに進出したこともありましたが、すぐにラジオ中心の活動に戻っていきました。テレビよりもラジオのほうが自由度が高いイメージがありますが、大沢さんには性格的にラジオの方が似合っていたように思います。

ちょうどこの時期にはTBSに林 美雄さんというアナウンサーもいたのですが、おしゃべりの雰囲気とか外見も少しですが大沢さんに似ている方でした。林さんは深夜のDJとしても人気を博していたのですが、残念ながら2002年にお亡くなりになっています。

 

話をコロッケ店時代のラジオ番組に戻します。

お昼休憩の時間に毎日聴いていたのが「小島慶子 キラ☆キラ」という番組です。現在、その時間は赤江珠緒さんがメインの「たまむすび」という番組を放送していますが、「たまむすび」がはじまる前に放送されていた番組です。

当時小島さんは「ラジオの女王」などと人気を博していましたが、性格的に拘りが強いといいますか頑なところがあり、番組を進行するうえで制作側と対立するようになり、結局降板してしまいます。ちょうど最終回の日は、大麻で逮捕されたあのピエール滝さんがパートナーを務めていたのですが、番組の最後に小島さんが自らの思いを語ったあとピエールさんに話を振ったとき、ピエールさんが小島さんに賛同というよりも“ちょっと違和感”といった対応をしたのが強く印象に残っています。

それはともかく僕がコロッケ店を営んでいたときは「小島慶子 キラ☆キラ」が放送されていました。この番組は各曜日ごとにパートナーが変わるのですが、月曜日はビビる 大木さんが務めていました。その大木さんが“一番好きな歌”として紹介していたのが今回紹介している「MONEY」です。僕はこのときに「MONEY」を知ったのですが、そのときの興奮気味に話す大木さんの声が忘れられません。

「MONEY」はメロディー的にはロック調の激しい歌なのですが、僕が心を打たれたのは歌詞の内容です。大木さんも歌詞に惹かれたと話していましたが、ストーリーの展開が素晴らしいです。先々週紹介しました「丘の上の愛」もストーリー展開が感動的なのですが、この歌も見事です。基本的に、ハマショーさんは歌詞が魅力的なのですが、まるで小説を読んでいるかのような気持ちにさせてくれます。

僕は全くの素人ですが、ハマショーさんの詞は作詞を勉強している人の勉強になるのではないでしょうか。短い言葉の中で、いろいろな情報や情景を思い浮かべさせる術が詰め込まれています。例えば、出だしの

♪この町のメインストリート 僅か数百メートル
♪さびれた映画館と バーが5、6軒
♪ハイスクール出た奴等は 次の朝、バックをかかえて出ていく

たったこれだけの歌詞ですが、主人公の置かれた状況や情景が思い浮かびます。人生はお金ですべてが決まり、お金こそ大切で、自分は成功してお金を稼いでやる、という強い意志が感じられる歌です。なんという歌詞のセンスでしょう。

歌詞の後半には

♪純白のメルセデス
♪プール付きのマンション
♪最高の女と ベッドでドン・ペリニヨン

という歌詞が出てくるのですが、この言葉だけでセレブ感が十分に伝わってきます。驚くべきことに、この歌詞が書かれたのは今からなんと約40年前ですが、全く色あせていないことに驚かずにはいられません。また、歌詞の真ん中あたりには男女が愛の営みを行っている光景を綴った歌詞があるのですが、その中には

♪愛してる…愛してる… もっともっと…

と女性が発すると思われる歌詞があります。コンサートではこの部分を女性観客に歌わせるパフォーマンスが恒例になっているそうですが、たまたまライブ版の音声を聞いたときに、女性ファンが拳を上げてこの部分を大声で歌っているさまには思わず笑ってしまいました。

この歌が発表された数年後に日本はバブルに突入するのですが、このときすでにバブルの予兆があったのかもしれません。というよりも「お金こそすべて」という発想が世の中に広がりつつある光景にハマショーさんは違和感を感じずにはいられなかったのでしょう。

一見、成り上がりを夢見ているふうで、実際はそうした風潮を批判しているハマショーさんの歌詞でした。

それでは、また。

「泣くかもしれない」

作詞作曲 下田 逸郎
歌 Homeless Heart
(山下弥生(vo)と岩田浩(G)(1957年1月30日生/兵庫県出身)からなる二人組のユニット。1994年10月発「Homeless Hear」でデビュー。1998年活動休止。


この歌を知ったのがいつなのか全く記憶がないのですが、2014年に製作された「海を感じるとき」の挿入歌として注目されました。しかし、映画の中での「泣くかもしれない」は僕が聞いたことがある歌とはちょっと違っていました。そこで調べたところ、昔CDで発表されていたときとは違う人が歌っていることが判明しました。

 

昔僕が聴いたCDは「ホームレスハート」という男女のユニットが歌っていたのですが、「海を感じるとき」の挿入歌でも男女のユニットではあったのですが、この映画のために組んだユニットだそうでした。しかし、昔の歌声を知っている僕としましては、やはりどこか物足りないものを感じてしまいます。

 

そもそもの話で言いますと、この歌を作詞作曲したのは下田逸郎さんという70年代に活躍したフォーク歌手です。確か、僕が高校生か大学の頃だったと思いますが、メジャーになっていた山下達郎さんと、どこか名前のイメージが似ていたのが強く記憶に残っています。しかし、名前のイメージとは裏腹にどこか暗く「あまりメジャーになりたくない」感が醸し出されていたフォークシンガーでした。

 

下田さんで有名なのは石川セリさんが歌っていた「セクシー」でしょうか。

♪子供みたいに笑うあなたが
♪急に黙って セクシー
♪旅に出るなら 夜の飛行機
♪つぶやくあなた セクシー

 

今の若い人は知らないかもしれませんが、石川セリさんはフォーク界の大御所・井上陽水さんの奥様です。僕の印象では、このように言っては失礼にあたりますが、下田さんはご自分が歌うよりもほかの人が歌った方が「素敵な歌」になるような気がします。桑名正博さんには「月のあかり」というバラードの名曲がありますが、これも下田さん作詞作曲の歌です。

 

話を戻しますと、「海を感じるとき」で久しぶりに「泣くかもしれない」を聞いたのですが、なんか違うなと思って調べて、僕が聴いていたユニットとは違うことがわかり、ネットで調べました。すると、ちゃんとあるんですねYouTubeに。さすがです。

 

僕が聴いていたときのユニットはもう解散しており、なので映画では新たにユニットを結成したのかもしれません。ですが、YouTubeでは僕が聴いていた歌がちゃんとアップされていました。本当に便利な時代です。

 

「泣くかもしれない」が僕の心に刺さったのは、その歌詞の奥深さでした。基本的に下田さんの歌はどれも歌詞が深く素晴らしいのですが、「泣くかもしれない」も秀逸です。僕に褒められてもうれしくないでしょうが…。

♪誰にでも愛される女に
♪なればなるほど
♪ダメになってく私がいて

♪誰からも嫌われる女に
♪なればなるほど
♪強くなってく私もいる

 

女性の心情を歌っていますが、よくよく考えますと男性にも当てはまり、つまりは人間すべての人のことを歌っています。周りのみんなから好かれようとするということは、自分を押し殺すことですので、自分がなくなっていきます。そして、自分を強く出せば出すほど周りとの軋轢が生まれ、生きづらくなっていきます。いったいどっちが本当の自分で、またどっちを相手の人は好んでくれるのか。哲学な歌ですよねぇ。

 

と、ここまで書いてきて思い出しました。先週の告知として「来週も浜田省吾さんの歌」を予告していましたが、変更することになってしまいました。その理由は、先週アマゾンプライムで「火口のふたり」を観たからですが、その挿入歌に下田さん作詞作曲の歌があったのです。それで下田さんの歌が心に強く刻み込まれてしまい、今回取り上げた次第です。ちなみに、その歌とは「早く抱いて」という歌ですが、またもや下田さんらしい心に刺さる歌詞になっていました。

 

下田さんはこんなに素晴らしい歌ばかりを作っているのに、メジャーになっていないのが不思議でなりません。

また、次回。

 

丘の上の愛

1980年発表のアルバム「HOME BOUND」収録曲

 

このなんとも少女漫画を思わせるタイトルが乙女チックです。これは以前コラムに書いたことがあるのですが、歌詞のサビに

♪愛が買えるなら その涙の理由を教えて
♪愛が買えるなら ため息の理由を聞かせて

とあるのですが、この「買える」のところのメロディーが長くて、ついつい僕には、ファンの方々には顰蹙を買うでしょうが、「買える」のところで「カエル」が連想され、「ゲロゲロ」という合いの手を入れたくなってしまいます。「愛が買えるなら」を「愛がカエルなら」と連想するのですが、これがまた、ちょうどよい感じで合いの手が入れやすいメロディーになっています。

 

そんなことはともかく、これほど純愛を歌った歌はありません。浜田さんの歌すべてに思うことですが、歌詞のストーリー性が秀逸です。冒頭でタイトルが乙女チックと書きましたが、歌詞の展開も少女マンガそのものです。僕の頭の中では池田理代子さんの「ベルサイユのばら」のイラストが勝手に広がっています。

 

歌詞を簡潔に紹介しますと、いつも着飾って承認欲求の塊のような人生を送っている女性が愛した男性は貧乏な学生でした。しかし、セレブな人生を望んでいた女性はその学生を捨て、お金持ちの男性との結婚を決断します。歌詞にある「丘の上」とは「丘の上にそびえ建つお城」のことで「セレブ」を象徴しています。

 

しかし、結婚生活を送るうちに「涙」があふれるようになり、「ため息」をつくようになります。

♪夜毎冷たいベットで夢見る
♪丘を駆け降りてく夢

お金に目にくらんだ自分自身を嘆いています。「丘を駆け降りてく夢」。つまり、「セレブな生活」よりも「純粋な愛」に目覚めたことを指しているのですが、身につまされる女性も多いのではないでしょうか。

 

でも「愛」だけじゃぁ、日々の生活を続けられないのも事実です。現実問題として、お金も必要です。僕の妻も日々おっしゃっておりますが、食べるものもなけりゃ「愛もへったくれ」もあったもんじゃありゃしやせん。最低限のお金の問題がクリアできたなら、次に問題になるのは価値観です。

 

それを教えているのが「花束みたいな恋をした」でしょうか。学生のような気楽な人生を謳歌しているときは、楽しい生活を遅れていたのですが、社会人になるに従い価値観が変化していきます。

 

結婚生活って「愛の暮らし」ではなく「日々の暮らし」なんですね。多くの人がそれに気づかずに結婚してしまいます。若いのですから当然です。そんなカップルが30年以上続いているとしたら、それは偶然の賜物でしかありません。もし、あなたの周りに長い結婚を続けていて、自らの慧眼を自慢している人がいたなら、その人は勘違いしていると思っていただいて構いません。それほど人間は全知全能な存在ではありません。

 

この歌を知ったのは、先週紹介しました「もう一つの土曜日」をネットで見ていたときにレコメンドされたからです。実は、ここから僕は浜田さんのいろいろな歌を知っていくことになるのですが、これらの歌のほとんどが発表されてから20年どころか、中には40年経っている歌の数々でした。僕がこれらの歌に出会えたのもネットというITの進歩があったからです。

 

インターネットの力ってすごいですよね。来週も浜田さんの歌にしようかなって思っていますが、しばらくおつき合いください。

 

また、次回。

「もう一つの土曜日 」

1985年5月22日に発売
浜田省吾の18枚目のシングルB面


この歌は歌詞が純愛ストーリーになっているのですが、僕からしますと昔の日活の青春映画を想像させる内容です。それこそ日活黄金期の吉田小百合さんがヒロインで浜田光夫さんが相手役の「昭和映画の匂い」がプンプンしてきます。

歌詞から僕が勝手にストーリーを作りますと、工場に勤務しているヒロインはとてもきれいな十代のかわいらしい女性です。そして、この女性を遠くから見守り心の中で慕っている男性は20代半ばといったところでしょうか。しかし、悲しいことに女性は上司と不倫しているのが社内で噂になっています。お昼休みに食堂で見かける女性はいつも寂しそうにしていました。

不倫ですから、上司には家庭があります。ですから、土曜日にしか会えないので「もう一つの土曜日」なのです。男性は不倫をしている女性に憤りを感じながらも愛してもいるのです。そのような状況を打開すべく男性は女性をドライブに誘い、愛を告白します。歌詞の最後は「受け取ってほしい、この指輪を」です。この女性には是非とも幸せになってほしい、と願うのは僕だけではないでしょう。


この女性に限らないのですが、不倫に走ってしまう女性は、そのとき世界が狭くなっていることがほとんどです。周りが見えなくなっているので不倫に陥ってしまうのです。そんな女性の心の隙間をうまくつくのが不倫に誘い込む男たちの常套手段です。この女性もそんな環境に陥っていました。ですので、上司の口車に乗せられてしまったのです。それを遠くから見つめていた男性は、悩み苦しみます。

♪君を思う時 喜びと悲しみ
♪ふたつの思いに揺れ動いている
♪君をさばこうとする その心が
♪時におれを傷つけてしまう

なんと切ない歌詞でしょう。

いじめで苦しむ人も同じような構図です。いじめで苦しんでいるとき、周りが見えなくなっています。そのときの周りが自分の人生のすべてに思えるからです。でも、世界はもっともっと広い、ちょっと環境を変わるだけで世界は全く違ったものになります。学校にしろ職場にしろ、狭い世界に閉じこもってしまっていては苦しさが増すばかりです。

あなたは自由です。自分の生きる場所は自分で決めることができます。そんなことを考えさせる歌です。浜田さんの歌にはテーマが3つあります。「純愛」と「不倫」と「人生」です。純真な人は「純愛」だけが素晴らしいと考えがちですが、浜田さんは違います。「不倫」という本来あってはならない愛も歌っています。

なぜか。

それは、人間は人間が考えるほど純粋な生き物ではないからです。過ちも犯すのが人間という前提があっての人間です。そうしたことも含めて「人生」を歌っているのが浜田さんのすごいところです。ちなみに、浜田さんは東日本大震災が起きる前から、なんと「僕と彼女と週末に」という原発の恐ろしさを歌っていました。

すごい人ですよねぇ。来週も浜田さんの歌にしよう。

また、次回。